花魁の帯は前で結ぶ。
結んだ形は「心」の字に似ていて、客の前で帯びを解き、心を晒すと言われている。
それから、雪華花魁は髪結いを呼ぶと、ばっさりと髪を落として凛とした男姿になった。
まるで手品でも見ているように変化した雪華花魁は、その日を大江戸に別れを告げた。
男姿となった雪華花魁が大通りを歩いていても、振り返る者は大江戸の中に一人もいない。この町に居るのは客と娼妓、ただそれだけだった。
短い花の盛りを散り急ぐように大江戸に咲いた大輪の花は、雪華いう名前を天華太夫に譲って地上へと向かった。
蝉の羽化に似ている気がする……と、長く伸びた影を見つめながら六花は思う。
「雪華兄さん。」
「六花。どうしたえ?」
ふっと振り向いた新しい雪華花魁は、昨日まで天華と名乗っていた花魁だった。期限付きで行儀見習いとして奉公する六花は、後しばらくは年季の明けるまで、代替わりした新しい雪華花魁付きの禿となる。
「すみません……。部屋に明かりが点いていたから、もしかすると兄さんが忘れものでもして、お帰りになったのかと思いんした。」
「わっちと兄さんを間違えたんだね?……心配せずとも、兄さんだったら現の世界でも、やっていけるよ。確か上に行ったら大学に行くと言ってたはずだが、気になるかい?」
「あい。申し訳もございんせん。」
「六花は、短い間にちゃんと廓詞も覚えて、本当に頭のいい子だね。兄さんがいなくなって寂しいかい?」
今は雪華花魁を名乗る天華は、ひらひらと手を振って六花を傍に呼んだ。懐かしい脂粉の香りを胸いっぱいに嗅いだら、涙が零れそうになる。現での名前も知らなかったが、いなくなった雪華が胸が痛くなるほど恋しかった。
「雪華……兄さん……」
新しい雪華花魁は、そっと手を伸ばし六花の頭を抱いた。
「泣いてもいいんだよ……?わっちも頼りにしていた兄さんがいなくなって寂しいよ。誰かと別れた後は、いつでもこう……胸の中に冷たい風が吹くね。」
「あい……」
「わっちはね、強くて優しい兄さんに貰った物を、次の世代に渡そうと思うよ。六花、お前もそうおし。いつまでも、同じところで立ち止まっているわけにはいかないからね。」
「あい。必ず。雪華兄さん。」
「さっき、お父さんから聞いたのだが、今日から新しい禿の子が入るそうだよ。よろしく頼む。色々教えてやってくれ。」
同じ思いを抱えた二人がここにいた。
大江戸に太陽はないが、ぐるりとドーム型に張り巡らされた天井のUnique Beauty 好唔好スクリーンに、作り物の夕日が沈むのが見えた。
「さ。支度の時間だよ。行こうか。湯屋を使うから、男衆にそう言ってきておくれ。」
「あい。雪華兄さん。本日もよろしくお願いいたしんす。」

「はなしてっ!……あーーぁっ……!いやーーっ!」
人魚の細く長い哀訴が響いた。
「思うさま泣け、小さな青い人魚よ。」
「そして、余の手に七色の真珠を零せ。」
浴室のガラスが突然びりりと震え、音を立てて粉々になってゆく。
異常に気付き、召使いや奴隷商人が、血相を変えて浴室に押し入ってきた。
「王さま!なんという事を!!あなたは、人魚の精を飮まれたのか!……」
口の端に溢れた人魚の精を、ぐいと拭った王さまの姿に奴隷商人は戦慄の表情を向けた。
「それがどうした。言い値で買ったものをどうしようと、余の勝手だ。」
「おお…なんという事を。お……おしまいだ……この国は…あなたは、もう、おしまいだ。あれほど、王子の事を海に知られてはならないと私がお伝えしたのに……。これから、海神の恐ろしい仕返しが始まる……。」
漁師の網に捕えられた小さな青い人魚が、スルタン(太守)マハンメド王の住む国に供物として贈られて来た。
捧げものは、まるで棺のように二重作りの分厚いガラスの箱に入れられ、外して見えないように黒い布を掛けられている。運ばれて来た小さな青い人魚は網にこすられた柔肌の傷痕も痛々しく、殆ど息絶え絶えで力なく水槽に漂っていた。
「なぜ、このように弱々しい生き物の水槽に、いくつも頑丈な鍵が付いているのだ。」
不思議に思ったスルタンは、運んできた奴隷商人に声を掛けた。
「助けを呼ぶからでございますよ。太守。」と、商人は息をひそめてささやいた。
「男の人魚というのは、そう多くありません。しかも伝承によると、金dermes 脫毛色の髪を持つものは、海神の息子なのです。おそらくこの子も波間に浮かぶ水鳥のように、海神の助けを呼ぶでしょう。その声が漏れないように、厚いガラス板で囲ってあるのです。」
「なぜでしょう……スルタン。わたしにはあなたがとても、寂しそうに見えます。」
スルタンは小さな青い人魚の輝く髪に、そっと唇を寄せどこか懐かしい海の匂いを嗅いだ。
「わたしの王妃は……お前の海の王国を訪ねたはずだ。数年前に……。」
「お妃さまが?でも、人は海の底では、息ができま……あ。」
それは、海に身を投げて命を落としたことなのだと、やっと人魚は気が付いた。
太守は、優しい笑みを浮かべると、人魚に今はない妃の話をした。
スルタンの名誉を守る為、敵国へと送還される船から、冷たい海へとげたのだと言う。それは、北へ向かう海の上だった。寂しいスルタンの妃は、先の戦で捕虜となり敵兵から辱めを受けた。
船の上で、酒色にふける兵士たちの戯れの慰み者となった王妃は、給仕をする振りをして、刀を奪うと胸を突き、愛するマハンメドの名を呼び船の舳先から身を投げた。
後を追い共に身を投げた侍女は、海を漂っているところを助けられ、妃の最期を涙ながらに伝えると味方の兵士の腕の中で憤死した。薄いヴェールをはぎ取られ肌を晒して震える女たちは、この中の誰が妃なのかと尋ねられても、一人として口を割らなかった。女官たちは皆、優しい王妃がdermes 脫毛好きだったし、いつか勇猛果敢な太守が遠征先から取って返し助けに来ると信じていた。

「はぁ……?なんか、男みたいな名前だな。お前の父ちゃんと母ちゃん、ネーミングセンス悪すぎじゃね?お前なら、もっと可愛い名前のほうがいいのに。」
「ぼく、男だもん……。」
「は……?女子だろ?だって、ピンクのスモックじゃん。」
「湊くんが、ぼくのスモック取っちゃったから、これしかなかったの。」
「湊くんって誰?」
「おねえちゃん。今、あそこで女の子たちの真ん中にいる子。」
「おねえちゃんだぁ?ばか野郎、あれこそ思いっきり男じゃねぇか。ああいうのは「すけこまし」っていうんだよ。」
「す……すけこま?湊くんは太ってないよ。」
どうやら、ぶたこまみたいなものだと思ったらしく、会話はまるでかみ合っていなかった。
「おれの父ちゃんみたいなタイプだな。孤独になりたくてもさ、ああいうタイプは女がほおっておかないんだ。ま、もてない男からは嫌われるタイプだな。おれも前の幼稚園じゃ、かなりもてたけど……。あいつ、すげぇな。負けたぜ。」
こまどり幼稚園を仕切るみんなの湊くんが、可愛い弟の為に腰を上げて、年中さんのひよこ組にやってきた。転入生が来るたびに、こういう事になるので周囲も慣れていた。
後から自称「湊くんの親衛隊」の女の子たちが連なってやって来る。
元はと言えば、自分が青いスモックを取り上げたせいで、禎克が桃色スモックを着ていることが発端なのだが、その辺はあえて不問らしい。
「おい、新入り。何やってんだ。禎克のぱんつ脱がして泣かしてんじゃねぇ。」
「うわああ~~~んん!!おねぇちゃ……じゃない、湊くん~!」
……こんな時まで、律義な禎克だった。
下だけ取られた間抜けな格好で、禎克は号泣していた。可哀ちんちんが、しょんぼりぶら下がって男の子だと主張しているはずだったが、太腿の間に挟まって今は目ちゃんにしか見えない。
「不憫な奴……。」
湊は思わず天を仰いだ。ぱんつ取られた時くらい、堂々と男だろって主張すればいいのに。
「何でぶら下がってんだよ!」
「男だもん。当たりまえだもん。生まれつき付いてるもん~。」
禎克は懸命に泣きながら抗議していたが、誰も聞いていない。むしろ禎克dermes 脫毛が熱くなる度、周囲は「可愛い~」と声を上げた。

< 2017年03>
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