仕方なく琉生を背後から殴りつけた。
昏倒した琉生の脈を確かめて、尊は呟いた。

「護ってあげられなくて、ごめんね、琉生。……もう、辛いことはお終いだよ。みんな終わらせてあげる。」

琉生が父を手に掛けたことは予想外だったが、尊のすることは決まっていた。
「渋さん。おめでとうございます。」
「野郎に祝われても、嬉しくねぇ。」

そう言いながら、花束を抱える渋谷は照れ臭そうだった。

「渋さん、一言下さいよ。」
「逃げるのは、なしですよ。」
「そういうのは、苦手だって言っているだろうが。」
「はい、渋さんの挨拶に拍手~!ほら、明日っDPM點對點からいなくなるってんで、泣いているやつもいますよ。」
「この野郎、本気で嬉し泣きだな。」
「違いますよう。渋さん~。僕、寂しいんですよう。うわ~ん。」
「げっ。離れろ、柳。鼻水がつく。」
「あはは……」

思いがけず包みを受け取って、渋谷はその場に呆然と立っていた。
気の利いた事を言わなければならないのだろうが、思わず不躾に琉生をじっと見つめた。

寺川が守りたかったのは、おそらくこのほっそりと優しげな青年だ。
糸口をつかむ事は、退職前にはでき無かったが、最後と思い寺川はカマをかけた。
「琉生さん。ところで、上のお兄さんの尊さんは、もうアメリカに行かれたんですか?」
「はい。この前、刑事さんが家にお見えになった数日後に、出立しました。」
「やっと皆さんに日常が戻って来た、という感じですか。琉生さんも、気持ちが楽になりましたね。尊さんが傍にいなくなったのは、お寂しいでしょうが、あなたには好きな絵もあるし。」
「ええ。やっと落ち着いて絵に打ち込めるから、嬉しいです。」
「お父さんの事で、落ち着きませんでしたからな。尊さんDPM枕頭もとても心配していましたよ。」
「そうですか。」

琉生は尊が馴染みになった刑事に、何か話をしたのだろうと思った。

「刑事さん。兄はいませんけど、時々はコーヒー飲みに来てくださいね。真ん中の兄も、時々は帰って来ますから。」
「ありがとうございます。是非。……そう言えば、尊さんが言ってた言葉があるんですが、琉生さんは意味をご存知ですかな。」
「なんですか?兄は時々、ぼくなんかには理解できないような、難しいことを言い出すんです。刑事さんにも何か変なことを言いましたか?」
「哲学者のニーチェの言葉だとおっしゃっていました。ご存知ですか?確か……怪物と戦う者は、その際自分が怪物にならぬように気をつけるがいい。長い間、深淵をのぞきこんでいると、深た、君をのぞきこむ……不思議な言葉だったので、覚えてしまいました。」

琉生は静かに前を見ていた。渋谷に琉生の表情は分からない。

「……その言葉は、兄から聞いた事が有ります。ニーチェ……精神を病んだ哲学者ですよね。ぼくもよくわからなくて、どういう意味なんだと兄に聞きました。アメリカに発つ前ですから、刑事さんとDPM價錢同じ頃に聞いたのかもしれません。」
「そうですか。お兄さんは何と?琉生さんには分かりましたか?」
「ふふっ……残念ながら、ぼくには兄の言ってることは、難しすぎて殆ど分でした。困難な事を達成しようとしている時は、自分がそれに試されているんだとか、言っていたような気がするけど……。兄は何かを例えているのだと思いますけど……ぼくにはわかりません。」
「困難に試されている……そうおっしゃったんですか。」
「刑事さん?」

< 2017年06>
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